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手品のような出口戦略

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手品のような出口戦略

 手品のような出口戦略

  1.   1. 綱渡り
  2.   2. 袋小路
  3.   3. 手品

10日(木)の参議院財政金融委員会で、黒田日銀総裁に「仮に3期目も続投という要請がある場合、どうしますか」と聞いたところ「そんなつもりもないし、その希望もない」という回答。通常であれば「職に恋々としない潔さ」と言いたいところですが、2年間で目標を達成すると豪語して導入した異常な金融緩和を10年も続け、目標未達成のまま後始末は後任に託すという姿勢は無責任と言わざるを得ません。黒田総裁の歴史的評価は後世に委ねられますが、厳しいものになる蓋然性が高いでしょう。

1.綱渡り

過日、政府の総合経済対策と補正予算が発表されました。事業規模71.6兆円、財政支出39.0兆円ですが、財務省は、財投債減額、借換債前倒し発行分の活用、前年度特例国債の発行減少等の工夫によって、新規国債発行額を極少化しました。

補正予算の表面上の新規国債発行額は22.9兆円に及ぶものの、上記の工夫により、実際の発行額は4.5兆円まで圧縮。

そこからさらに割引短期国債(短国)を4.2兆円発行することで利付国債発行を抑制し、結局、利付国債は2年物を来年1月債から1000億円増加させるにとどめ、当初比では3000億円増額に抑制しました。

苦肉の工夫ですが、それぞれ問題があります。財投債削減は、教育、医療、福祉、ODA等に使われている財政投融資削減につながります。繰り返し同じ手法を使うことは難しいでしょう。

借換債前倒し発行は単純な「前借り」に過ぎず、確実に将来の発行増につながります。

短国発行額は新型コロナ禍以降、急増しています。とくに20年度の短国は前年度の21.6兆円から82.5兆円と約4倍増。22年度は当初予算では60.4兆円に縮小しましたが、今回の補正予算で64.6兆円に膨らみます。

短国が大規模に発行できる(市場が消化できる)のは、日銀当座預金残高にマイナス金利が課せられているため、預金者である民間金融機関(日銀取引先)に購入ニーズがあるからです。

ただ、償還までの期間が短い債券の増加は金利上昇時に利払費増加をもたらします。金融市場はその点を注視しており、このような「綱渡り」運営を長く続けることは困難です。

国としては、償還までの期間が長い利付国債を発行した方が財政運営は安定します。しかし、20年や30年など超長期債の市場環境は芳しくなく、大量消化は困難です。

現在の超長期債発行額は月平均2.7兆円。一方、日銀の超長期債買入オペは月約1兆円。カバー率は約37%。10年債の81%や5年債の76%と比べて低い水準です。

日銀は超長期金利をイールドカーブコントロール(YCC)の操作対象にしていません。超長期金利は市場機能を維持(重視)する姿勢を示しつつ、実際には超長期金利が上昇して10年物金利に影響が及ぶ場合には買入操作を行なっています。

こうした状況を市場関係者は熟知しており、最近では超長期市場の消化余力や先物ヘッジ機能が低下。今回の補正予算で、超長期債ではなく、2年債や短国が増発対象に選ばれたのはそうした事情も影響しています。

金利上昇局面でも発行済み国債の利払費は増加しませんが、償還1年以内の短国を借り換える際は利払費が膨らみます。債務の短期化は金利上昇時に利払負担が急増する構造につながっています。

日本は他国に比べ民間資金需要が乏しい状況が続いています。政府は需要創造に注力しつつ、長期国債発行残高は増やしたくないと思っているでしょう。一方、資金余剰の民間金融機関には運用ニーズがあり、こうした事情が短国消化を可能にしています。

以上のような動きを反映し、日本の統合政府(政府と中央銀行)の対民間債務平均残存期間は短期化しています。

景気回復に伴う金利上昇なら、税収も増え、国債発行量を減らすことも可能ですが、リスクプレミアム上昇に伴う金利上昇であれば財政状況はさらに厳しくなります。

「綱渡り」状態がいつまで継続可能か、誰もわかりません。メルマガ前号で取り上げたミンスキーモーメントは突然到来します。

そうならないように、財政当局にもいろいろ提言しますが、「綱渡り」以外に手段がないのが実情でしょう。過去10年、そういう状況に自ら追い込んできたのが日本の現実です。

気分転換に一節。「綱渡り」は奈良時代に中国から伝来した「散楽雑伎(さんがくざつぎ)」の中のひとつ。江戸時代初期には「蜘蛛舞(くもまい)」と言われ、歌舞伎の「けれん(舞台仕掛け)」に影響しました。明治になると、西洋の綱渡りも日本に入ってきました。

西洋の「綱渡り」の歴史は古代ギリシアまで遡ります。「綱渡り」を行う人は「フナンブラ(funambula)」 と呼ばれたそうです。政府・日銀は今や「フナンブラ」です。


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